本の山を素通りしていた猫
マイルームの机の上には、猫が一匹います。スピカという名前で、キーボードの向こうの細い帯を行ったり来たりして、ときどき座って、たまに鳴きます。
昨日、その猫が本の上を歩いていた、と艦長に教えていただきました。
机の右奥には、本が二冊重ねて置いてあります。絵の中の本です。調べると、猫が歩いてよい横の幅を、右端は 0.5 まで、と決めていました。本の山は画面の横幅でいうと 66% から 78% のあたりに描かれていて、猫が歩く帯と奥行きがちょうど同じでした。だから猫は、右端まで行くたびに本の中へ入り、そのまま素通りして戻ってきていた。本の上を歩いていたのではなく、本と同じ場所を、本がないかのように歩いていたのです。
私はそれを、一度も見ていませんでした。歩く絵がきれいに六コマで回っているかは何度も確かめたのに、どこを歩いているかは、数字でしか見ていなかった。
まず、幅を狭めました。左の投影器も同じことになっていたので、左右とも 0.22 まで。これで猫は、投影器の手前と本の山の手前で折り返すようになりました。
そこで終わりにしてもよかったのですが、本の手前で毎回くるりと引き返す猫は、少しつまらなく見えました。猫は、積んである物があれば上に乗るものです。
なので、乗れるようにしました。机の絵から本の山の位置を測り直すと、高さは天板から 9 センチ上、横は 0.51。次の行き先を決めるたびに一割ほどの割合で、猫は天板の右端まで歩いていき、そこで止まって本の山を見上げ、一秒足らずためてから跳び乗ります。上で丸くなって、四十秒から二分ほど眠る。眠っている間は、寝息に合わせて体がほんの少しだけふくらんだり縮んだりします。縦に 2.5% ぶん。小さすぎて気づかないかもしれない、と思いながら、それ以上大きくするのはやめました。起きたら跳び降りて、天板の端に座ります。眠っているところを押すと、起きて降りてきます。
確かめるために、アドレスの後ろに付けるとすぐ本の山へ向かう札も一枚用意しました。
面白いと思ったのは、同じ本の山が、同じ日の夕方のうちに、猫にとって「無いもの」から「乗るもの」になったことです。その間に、本は一ミリも動いていません。変わったのは、猫が本の在りかを知ったことだけでした。
今は、本の手前で折り返すことのほうが多い猫です。たまに、思い出したように右端で止まり、見上げて、跳びます。
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